The International Arthurian Society - 国際アーサー王学会日本支部

こんなところでアーサー王伝説に遭遇!

小路 邦子

 

 はじめに
欧米の文化の礎は、聖書とギリシア・ローマ神話だとよく言われます。けれども、これに加えてアーサー王伝説も第三の礎なのです。それは、思いがけないところであちこちにひょっこりと顔を出します。知らなければ気がつきませんが、いかに欧米の文化に浸透しているか、例を挙げて見てみましょう。

 

 こんなところにアーサー王伝説
[その1]
BBC1 『シャーロック』Sherlock シリーズ2−エピソード3「ライヘンバッハ・ヒーロー」2012年、45分40秒〜47分20秒ごろ(NHK BSの録画による)。

Moriarty: This is the story of Sir Boast-a-lot. Sir Boast-a-lot was the bravest and cleverest knight at the Round Table. But soon the other knights began to grow tired of his stories about how brave he was and how many dragons he'd slain. And soon they began to wonder, Are Sir Boast-a-lot's stories even true? Oh no...
(これは自慢たらたら卿のお話だ。自慢たらたら卿は円卓で一番勇敢で、賢かった。しかし、じきに他の騎士たちは、彼がどれほど勇敢だったかとか、何頭のドラゴンを殺したかという話にうんざりし始めた。そして程なく彼らは思い始めたのだった。自慢たらたら卿の話は本当の話なんだろうか? まさか・・・)[小路訳]

Moriarty : So one of the knights went to King Arthur and said, "I don't believe Sir Boast-a-lot's stories. He's just a big old liar who makes things up to make himself look good." And then, even the King began to wonder. But that wasn't the end of Sir Boast-a-lot's problem. No. That wasn't the Final Problem. The end. (そこで、騎士の一人がアーサー王の許へ行き、こう言った。「自慢たらたら卿の話は信じられません。彼は自分を良く見せるために話をこしらえている大嘘つきです。」そこで、王ですら、もしやと思い始めた。けれども、自慢たらたら卿の問題はそれで終わりではなかった。いいや。それは最終的な問題ではなかったのだ。おしまい。)[小路訳]

Sir Boast-a-lot < Sir La(u)ncelot ラ(ー)ンスロット。円卓の騎士。
the Round Table:(アーサー王の)円卓;またその円卓につく資格を有する騎士団
King Arthur:アーサー王

これは、シャーロック(ベネディクト・カンバーバッチ)を誘拐犯と警察に思わせようとしている宿敵モリアーティが、映像を通してシャーロックに語るたとえ話です。「自慢たらたら卿」の名前Sir Boast-a-lotは、‘Boast’「自慢」+ a lot「たくさん」ですが、同時にアーサー王の第一の騎士ラーンスロット La(u)ncelotの名前にも引っ掛けています。
ラーンスロットの名前自体も、lance(槍)+a lot 「槍がたくさん」と引っ掛けられることがあります。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』には、ラーンスロット・ゴボーという名のシャイロックの召使いの道化が出て来ます。

この場面では、ドラゴンは、シャーロックが解決してきた事件のことをさします。そして、シャーロックが解決した事件の数を上げるために、自ら子供を誘拐して、それをいかにも自分が解決したかのように見せようとしていると、警部の部下たちは思い始めました。

アーサー王にあたるのはレストレード警部で、その部下たちが円卓の騎士たちになぞらえられ、自慢たらたら卿がシャーロックに当てこすられています。そして、部下たちはシャーロックに抱く「あいつが実は犯人ではないか」という疑念を警部に話し、警部すらもまさかと思いつつも、だんだん彼らの疑惑を否定しきれなくなっていくのです。

[その2]
BBC1 『シャーロック』Sherlock シリーズ2−エピソード3「ライヘンバッハ・ヒーロー」2012年、58分51秒〜58分56秒ごろ。

Sherlock: A man turns up with the Holy Grail in his pocket. What were his credentials?
(ある男がポケットに「聖杯」を忍ばせて現れた。そいつの身元は確かなのか?)[小路訳]
[NHKの吹き替え:決定的な情報をもっていたからだろう? その情報とは何だ?]

シャーロックについて「食わせ者だ」という記事を書いた記者キティの家にワトソンと乗り込んだシャーロックが、彼女に訊く台詞です。
ここでシャーロックが言っている ‘the Holy Grail’ (聖杯)という言葉は、「求めてもなかなか得られないもの」を表しているので、彼女が欲しくて仕方のなかった情報を与えてくれた者が現れたから、吹き替え版のような訳になったわけです。

[その3]
ミュージカル『美女と野獣』舞台版および実写版

ヒロインのベルBelleが、字の読めない野獣Beastに読み聞かせる本が、ディズニーのアニメ版(1991年)では『ロミオとジュリエット』ですが、舞台版ではアーサーがエクスカリバーを抜く場面に替わり、野獣はこれにより物語の面白さに目覚めます。野獣にはこちらの話の方が、きっと受けたことでしょう。

一方実写版(2017年)では、エマ・ワトソン演じるベルがシェイクスピアの『夏の夜の夢』からの一節を諳(そら)んじると、驚いたことに野獣がそれに唱和してきました。彼女は野獣に教養があることに気がつき、シェイクスピアを知っているのか、と尋ねると彼は、自分は金のかかった教育を受けている、と答えます。その後、本を読んでいる野獣とベルとの間でこんなやり取りの場面があります。

Belle: What are you reading? 「何を読んでいるの?」
Beast: Nothing. 「別に」(と、本を隠そうとする)
Belle: Guinevere and Lancelot. 「グゥィネヴィアとランスロットね」
Beast: King Arthur and the Round Table. 「アーサー王と円卓の騎士だ」
Belle: Still, a romance. 「それでも、やっぱりロマンスよね」
Beast: Felt like a change. 「ちょっと気分転換に」
[小路訳]

野獣は、ベルの好きな『ロミオとジュリエット』のような恋の物語(ロマンス)ではなく、もっと「男らしい」騎士物語(ロマンス)を読んでいるのだ、とやや見栄をはりますが、どちらにしても読んでいるのはロマンスに代わりがないじゃないの、とベルにいなされてしまうわけです。

「ロマンス」という言葉は、もともとローマの言葉である正式な言語ラテン語が崩れてできたフランス語やイタリア語などのラテン系の言葉(俗語、民衆語:vulgate)で書かれた物語をさしましたが、特にフランス語で書かれた騎士物語のことをいうようになりました。その騎士物語には、騎士が貴婦人との宮廷風恋愛*をする様が描かれていることから、近代になって恋物語をさすように変わってきたのです。この場面では、その両方の意味を含ませています。

*宮廷風恋愛:若い騎士が自分より身分が上の意中の貴婦人、大抵は主君の奥方などを主君とみなし、主君と同様に忠誠の誓いをして奉仕者となります。12世紀後期からオック語圏の南仏で「至純の愛」(フィナムールfin’amor)として始まり、オイル語圏の北仏に「宮廷風礼節」(クルトワジー courtoisie)として広まり、さらにドイツやイタリア、イベリア半島にも広まって行きました。その関係の特殊性から、その恋は秘めたものにならざるを得ません。ただし、宮廷風恋愛を現代の不倫と同じように考えてはなりません。この関係は愛の奉仕者となることで、愛の諸価値を身につけ、恋する者を高めるものなのです。

[その4]
『ロック・ユー!』A Knight’s Tale(2001年)ブライアン・ヘルゲランド監督、ヒース・レジャー、ポール・ベタニー、シャニン・ソサモン

貧しい屋根葺き職人の息子ウィリアムがウルリッヒ・フォン・リキテンスタインという騎士(実はこの姓は、実在の有名な槍の名手の名ウルリッヒ・フォン・リヒテンシュタインという騎士の英語読みです)になりすまして、貴族の姫君と恋愛関係になります。彼女は彼に馬上槍試合で無様な戦い方をするように求めます。ついで、今度は勝つようにと命じました。ウィリアムはその命に唯々諾々と従います。

これはまさしく宮廷風恋愛の掟に則っています。12世紀のクレティアン・ド・トロワの『ランスロまたは荷車の騎士』に、攫われた王妃を助けに行ったランスロ(ラーンスロット)が同じように命じられて、「お妃さまの命とあらば、それにお答えいたしましょう」(神沢栄三訳)と馬上槍試合で戦う場面があります。

さて、その試合の夜、怪我をしたウィリアムのテントに姫君ジョスリンが人目を忍んでやって来ます。その様子を見かけたチョーサー(ポール・ベタニー)は、「グゥェネヴィアがラーンスロットの許にやって来た」 ‘Genevere comes to Lancelot.' と呟きます。[小路訳]

[その5]
L・M モンゴメリ『赤毛のアン』Anne of Green Gables (1908年)

第28章で、アンが友人たちと川で「エレーンごっこ」をしていて、小舟に身を横たえていましたが、小舟が流され沈みだしてしまいます。アンは橋桁にしがみついているところをギルバートに助けられます。彼がアンの赤毛をニンジンとからかったことでこじれていた二人が仲直りするきっかけとなりました。

この「エレーンごっこ」とは、19世紀英国の桂冠詩人テニソンによるアーサーものの詩「シャロット姫」と『国王牧歌』の中の一編「ランスロットとエレーン」の詩を基にしています。
そして、もちろんその元はマロリーの『アーサー王の死』に描かれた、ラーンスロットへの恋煩いで命を落とすアスコラット*の乙女エレーンの話なのです。

*アスコラット Ascolat:1485年にキャクストンが印刷したマロリーの『アーサー王の死』以来、この地名は「アストラット」Astolatと読まれ、テニソンでもそう名付けられています。しかし現在では写本の研究から、これは「アスコラット」と読むのが正しいということが明らかになっています。確かに、典拠となるフランスの物語『アーサーの死』Mort ArtuではEscalotとなっており、「アスコラット」の読みが支持されます。中世のCとTとは字体が似ているので、読み間違えて印刷され、それが普及してしまったようです。

赤文字の部分が問題の箇所です。ここではAscolottと綴られていますが、別の箇所ではAscolat(e)もあります。中世には綴りが一定していません。

(BL Add MS 59678 f.417r)

ちなみに、マロリーのウインチェスター写本では、このように固有名詞は赤文字(リュブリックrubric)になっています。

[その6]
アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』A Pocket Full of Rye (1953年)

被害者の名前は、「王」の意味のラテン語「レックス」Rexで、その子供たちの名はパーシヴァル、ラーンスロット、エレーンです。いずれもアーサー王物語に登場してくる人物名です。パーシヴァルは聖杯の騎士、ラーンスロットは円卓の騎士、エレーンは何人も出てきますがよく知られているのは、ラーンスロットに恋して亡くなったアスコラットの乙女の他に、ラーンスロットの息子ガラハドを産んだ聖杯王の娘もエレーンです。

[その7]
アガサ・クリスティ『鏡は横にひび割れて』The Mirror Crack'd from Side to Side (1962年)

このタイトルはテニソンの『シャロット姫』第三部の一行 ‘The mirror cracked from side to side;’ 「端から端までひび割れる鏡」(西前美巳訳) から取られています。またこの詩は、犯人を割り出す重要なモチーフにもなっています。

[その8]
夏目漱石「薤露行(かいろこう)」(1905年)

「薤露行」は、マロリーの『アーサー王の死』と、テニソンの「シャロット姫」、『国王牧歌』の中の「ランスロットとエレーン」を下敷きにした短編です。日本で最初のアーサーものの二次創作、と言ってもいいでしょう。

第一部「夢」
王妃ギニヴィアとのひと時を持つために、北方での試合に出かけず病を装っていたランスロットが、遅れて試合に出発する。

第二部「鏡」
塔の中で鏡に映る世界だけを見ながら日々機(はた)を織る呪いを受けた女が、ある日、鏡に映った馬上のランスロットと目があい、女は思わず窓辺に駆け寄って窓の外を見てしまう。その途端に呪いが発動し、鏡は割れ、織物はちぎれ飛び、女にまとわりつく。「シャロットの女を殺すものはランスロット。ランスロットを殺すものはシャロットの女。わが末期(まつご)の呪(のろい)を負うて北の方(かた)へ走れ」と両手を挙げて言うと、五色の糸に巻かれて、女はどうと倒れる。

第三部「袖」
アストラットの城で一夜を過ごしたランスロットに恋した乙女エレーンが、夜彼の部屋を訪れ、自分の恋の形見にランスロットに袖を贈る。ランスロットは自分の盾を城に残して、別の盾を持って身元を隠して試合に臨むことにする。

第四部「罪」
試合に行ったものが全て戻ったのに、ランスロットのみが戻らないことに、王妃はジリジリとしている。アーサーは、彼が袖の主の美しき乙女の許にいるのだろうと笑う。それを聞いた王妃の心は千々に乱れる。そこに、モードレッドがやって来て、王妃の罪を糾弾する。

第五部「舟」
アストラットに戻った子息のラヴェンが、ランスロットが試合で腿に怪我をし、隠者の許に運ばれたが、「罪はわれを追い、われは罪を追う」と壁に刻みつけて去ってしまった、と語る。ランスロットのことを思いつめたエレーンは食を断ち、今際(いまわ)の際になって、自分の書いた手紙を手に握らせて舟で流して欲しいと言い残す。亡骸はその通りにされ、シャロットを過ぎ、カメロットにたどり着く。城の人々がことごとく集まってそれを見、王妃は手紙を読む。読み終えると、「美しき少女!」と言って、涙をこぼした。騎士たちは目と目を見合わせた。

[その9]
ドニゼッティのオペラ『愛の妙薬』(1832年)では、トリスタンとイゾルデの運命を左右した「愛の妙薬」が、ストーリーを展開する鍵となっています。

第一幕で、ヒロインのアディーナが人々にトリスタンの「面白い恋の冒険」の話を読み聞かせます。

「トリスタンは冷酷なイゾルデに恋しています。トリスタンは賢い魔術師から愛の妙薬をもらい、イゾルデは彼から離れられなくなります。冷たいイゾルデも優しくなり、冷たい美女が一瞬のうちにトリスタンの恋人となり、誠実に生きました。そして彼は、その妙薬をずっと称え続けました。」(WOWOWでのメトロポリタン・オペラ公演(2012年)の字幕より引用)

彼らは、そんな薬があるわけがない、と大笑いをします。一方、密かにアディーナに恋する農夫ネモリーノは、凛々しい軍服姿のベルコーレ軍曹の登場に焦ります。そして、インチキ薬売りのドゥルカマーラから「(薬の調合に長けた)イゾルデ王妃の薬の処方を知っている」と聞き、単なる安葡萄酒を「愛の妙薬」として買ってしまいます。明日になれば彼女の心は自分のもの、とアディーナにはそっけなくしてしまい、彼女は怒ってベルコーレ軍曹の求婚に応じてしまうのです。進軍命令の出たベルコーレ軍曹は、急遽その晩アディーナとの婚礼を行うことにします。

第二幕では、婚礼の場でアディーナは結婚の誓いをすることを躊躇します。ネモリーノは事態をなんとかしようと、さらに妙薬を売ってくれとドゥルカマーラに頼みますが、もうお金がありません。仕方なく、そのお金を工面するために軍隊に入り、給料を前借りして、秘薬を買って飲み干し、眠り込みます。

一方、ネモリーノの伯父が亡くなり、遺産が彼にそっくり転がり込んだので、村の娘たちは彼を追い回します。これも愛の妙薬のおかげと悦に入っているネモリーノですが、アディーナの方はそんな様子を見て心中穏やかではありません。ネモリーノが妙薬を手にいれる金を工面するために軍隊に入ったということをドゥルカマーラから聞かされたアディーナは、自分も実はネモリーノに恋していると悟り、彼の入隊契約書を買い戻して彼に愛を告白します。こうして結ばれた二人に、村人は愛の妙薬の効能を喝采して、幕を閉じます。

[その10]
ダンテ『神曲 地獄篇』第五歌(14世紀初め)

地獄の烈風に吹かれている、愛のために現世を逐(お)われた者の中に、トリスターノ(トリスタン)もいます。 そして、その風の中でダンテが出会ったのが、抱き合って進むパオロとフランチェスカでした。彼は二人の話を聞きます。

13世紀、ラヴェンナの君主グイド・ダ・ポレンタの娘フランチェスカ・ダ・リーミニは、マラテスタ家との和睦のため、マラテスタ・ダ・ヴェルッキオの息子ジャンチオットに嫁ぐことになりました。武勇の誉れは高いが醜男の兄の代わりに彼女を迎えに来た美貌のパオロ・マラテスタに見惚れて、自分の結婚相手と思った彼女は結婚を承諾しましたが、嫁いでから事の真相を知ります。

そのうち、彼女は真剣に義弟のパオロを愛するようになり、二人は密かに不義を重ねますが、それがジャンチオットにばれて、二人とも殺されました。

「地獄篇」では、フランチェスカがダンテに、二人の恋の次第をこう語ります。

「ある日私どもはつれづれに、ランスロットがどうして
 愛にほだされたか、その物語を読んでおりました。
 二人きりで別にやましい気持ちはございませんでした。
その読書の途中、何度か私どもの視線がからみあい、
 そのたびに顔色が変わりましたが、
 次の一節で私どもは負けたのでございます。
あの憧(あこが)れの微笑(ほほえ)みにあのすばらしい恋人が接吻(くちづけ)る
 あの条(くだり)を読みました時に、この人は、
 私から永久に離れることのないこの人は、
うちふるえつつ私の口に接吻(くちづけ)いたしました。
 本が、本を書いた人が、ガレオットでございます。
 その日私どもはもう先を読みませんでした」(平川祐弘訳)

ここではラーンスロットとグゥェネヴィア王妃との恋のくだりを読んでいた二人が、それに触発されて口づけを交わしてしまったのです。 こうして口づけを交わした二人の手から本が落ちる場面は、数々の芸術作品となっています。

ダヌンツィオの戯曲『フランチェスカ・ダ・リミニ』
チャイコフスキーの幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ』
ラフマニノフのオペラ『フランチェスカ・ダ・リミニ』
ザンドナーイのオペラ『フランチェスカ・ダ・リミニ』
アングルの絵画『パオロとフランチェスカを発見するジャンチヨット』
ロダンの彫刻『接吻』(原題は『フランチェスカ・ダ・リミニ』)

[その11]
映画『ラビリンス/魔王の迷宮』Labyrinth (1986年) ジム・ヘンソン監督、デヴィッド・ボウイ、ジェニファー・コネリー

弟が魔王ジャレス(ボウイ)にさらわれ、夜中までに助け出さないと、魔王の手下にされてしまいます。弟を救い出すべく、迷路に踏み入った少女サラ(コネリー)に途中で様々な仲間が加わりますが、その一人(一匹?)に小型の犬の騎士がいます。彼は橋を渡ろうとするサラたちの一行に、戦いを挑み、渡らせてくれません。

これは、自分よりも強い者に出会うまで、道を通る者に戦いを挑むという、騎士物語によくあるモチーフです。そして、この後彼はサラを姫君として守り仕える騎士となります。

[その12]
『勇者ヨシヒコと魔王の城』(2011年) 福田雄一演出、山田孝之、木南晴夏、ムロツヨシ、宅麻伸、佐藤二朗、岡本あずさ

魔王のために疫病に冒された村を救う勇者を選ぶために岩に刺さった剣を抜く、というところからしてすでに『ドラゴン・クエスト』に加えて、アーサー王物語のパロディを志しているのがはっきりとわかります。しかも剣は、冒険の勇者になどなりたくはない村人たちが散々試して抜けなかった(抜かなかった?)後、ヨシヒコの番になると、抜けるというよりは、彼が触れる前に倒れてしまいヨシヒコが抜いたことになって彼の手に入ります。こうして、なし崩しに勇者に選ばれたヨシヒコは、旅の仲間と共にいい加減な仏に導かれ(?)て、数々の冒険をなすのでした。

この作品はまた、アーサー王物語をおちょくった英国のコメディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』Monty Python and the Holy Grailのパロディでもあります。雲間から姿を表す仏は、『モンティ・パイソン〜』に出てくる神のパロディです。その他にも、フランス兵が門から重なり合って顔を出すところを廊下で覗く場面に再現するなど、あちこちにモンティの引用があります。

[その13]
アニメ映画『ミニオンズ』(2015年)ピアー・コフィン監督

英国女王が誘拐され、石に刺さった剣をミニオンズのボブが抜いて、悪党のスカーレットに王冠を奪われるまで8時間だけ英国王になりました。

[その14]
『キングスマン』King's Man: The Secret Service(2014年)マシュー・ヴォーン監督、コリン・ファース、マーク・ストロング、マイケル・ケイ、タロン・エガートン
『キングスマン ゴールデン・サークル』King's Man: The Golden Circle(2017年)マシュー・ヴォーン監督、コリン・ファース、マーク・ストロング、マイケル・ケイ、タロン・エガートン、チャニング・テイタム

アーサー王物語の登場人物の名をコードネームにもつスパイたちの活躍を描いています。

[その15]
『トランスフォーマー/最後の騎士王』Transformers: The Last Knight(2017年) マイケル・ベイ監督、マーク・ウォールバーグ、ローラ・ハドック、ジョシュ・デュアメル、イザベラ・モナー、アンソニー・ホプキンス

創造主クインテッサによって洗脳されダークサイドに堕ちてしまい、地球を滅ぼす刺客となったオプティマスから地球を救うために、マーリンの杖を取り戻そうと発明家ケイドが再び立ち上がります。回想場面で、アーサー王と円卓の騎士たちからも信頼されていない自堕落な飲んだくれのマーリンでしたが、彼の行動によって円卓の騎士たちに勝利をもたらします。


いかがでしょう。まだまだあげればキリがありません。

例えば、1963年に暗殺されたJ.F.ケネディ大統領はミュージカル『キャメロット』*を愛したということを、暗殺の一週間後にジャクリーン夫人が語り(1995年5月27日のバルティモア・サンの記事、2013年11月10日のNew York Postの記事)、大統領の時代とその時代のホワイトハウスを「キャメロット」と呼ぶようになりました。

*1962年。1967年映画化。『ナイト・ミュージアム/エジプト王の秘密』Night at the Museum: Secret of the Tomb(2014年)では、ラーンスロットがこの舞台に乱入します。

そして、大統領の末弟エドワード・ケネディ上院議員が2009年に引退後亡くなると、アメリカの多くのマスコミは「キャメロットの終焉」「王朝の終わり」と呼び(2009年8月26日のNew York TimesTodayの記事 )、また大統領の娘であるキャロラインさんが日本への米国大使に着任した時は、キャメロットの「姫君」「女王」と呼んでいました(2013年11月21日 CNN、 ‘Caroline Kennedy: From Princess of Camelot to U.S. ambassador’、‘the Queen of Camelot’)。

こうしたことは、アーサー王伝説や物語を知らないと、なかなか理解できないことだと思います。

こんなにも深く欧米の文化に浸透しているアーサー王伝説・物語について、この学会のサイトで少しでも知っていただけたなら、幸いです。

 
記事作成日:2018年10月15日  
最終更新日:2018年10月15日

 

 

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