The International Arthurian Society - 国際アーサー王学会日本支部

『トリスタン』(ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク)

一條 麻美子(東京大学准教授)

 

 はじめに
中世に「トリスタン物語」は数あれど、現代のわれわれがイメージする悲劇の恋人トリスタンとイゾルデに最も近いのは、中世ドイツの詩人ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク(Gottfried von Straßburg)の19548行にして未完の大作『トリスタン』(Tristan)に登場する恋人たちであろう。この作品は、他のドイツ中世文学と同様に、一時期は表舞台から消え去ったものの、ロマン主義の到来と共に再発見され、ワーグナーによる舞台化を経て、不滅の恋愛物語としての地位を獲得することになったのである。

 

 あらすじ
パルメニーエ(ブルターニュにある領国)の貴族リヴァリーンと、コーンウォール王マルケの妹ブランシェフルールの間に生まれたトリスタンは、生まれ落ちると同時に両親を失い、父の忠実な家臣ルーアルに育てられる。騎士にふさわしい教育を受け、理想的な若者に成長するが、あるときノルウェーの商人に誘拐され、マルケ王の領国コーンウォールに流れ着く。マルケはこの才能に溢れる若者を寵愛する。トリスタンを探して当地を訪れたルーアルによってマルケの甥であることが明かされ、トリスタンは王の親族として盛大な刀礼式を挙げ、騎士に叙任される。

ちょうどそのころアイルランドから勇者モーロルトが、貢ぎを要求するためコーンウォールへとやってくる。トリスタンは周囲が止めるのも聞かずモーロルトに一騎討ちを挑み、見事勝利するが、モーロルトの毒剣によって瀕死の重傷を負い、命ながらえるために敵国アイルランドへ向かわざるを得なくなる。傷の毒を取り除くことが出来るのは、モーロルトの妹で医術の心得があるアイルランド王妃しかいないのだ。身分を隠してアイルランド宮廷に潜入したトリスタンは、王妃の治療を受けて回復し、その才能を見込まれて王女イゾルデに語学、音楽、礼儀作法などを教えた後、無事コーンウォールに帰国する。

帰国後ますますマルケ王の寵愛を受け、後継者と目されるようになったトリスタンに嫉妬を隠せない宮廷人たち。彼らはマルケにアイルランド王女イゾルデとの婚姻を勧め、その使者にアイルランド事情に通じたトリスタンをあてるよう進言する。トリスタンは命を受けてアイルランドを再訪する。

アイルランドはそのころ忌まわしい竜に襲われており、王は竜退治をした者に王女イゾルデを妻として与えると約束していた。トリスタンは竜を倒し、その証拠に竜の舌を切り取るが、毒気に当てられて気を失ってしまう。ちょうどその場に現れたアイルランドの内膳頭は、手柄を奪うため竜の頭を切り落として宮廷に運び、王女との結婚を要求する。臆病者として知られた内膳頭が竜を退治したことを不審に思った王妃と王女イゾルデは、竜退治の現場を訪れて瀕死のトリスタンを発見し、宮廷に連れ帰って治療をする。王女イゾルデは、トリスタンの剣の刃こぼれと、伯父であるモーロルトの遺骸に残っていた破片とが一致したことから、トリスタンが伯父の仇であることを知るが、内膳頭との結婚を回避するために、周囲の勧めもあって和解する。舌を証拠として竜退治の勇者はトリスタンであることが認められ、トリスタンはイゾルデを伯父マルケ王の妻として連れ帰ることに成功する。

コーンウォールへの帰路、船上で二人は誤って、マルケとイゾルデが飲むはずだった媚薬を飲んでしまい、運命的な恋に落ちて結ばれる。そして二人は、処女を失ったイゾルデの代わりに侍女ブランゲーネを初夜の床に送り込むことに始まり、次から次へとマルケ王を欺いて逢瀬を重ねることになる。そのうち妻と甥に対する猜疑心に耐えきれなくなったマルケが二人を宮廷から追放すると、トリスタンとイゾルデは山奥の洞窟(愛の洞窟)でしばし二人だけの理想の愛の生活を送ることになる。王に許されて再び宮廷に戻った二人だったが、互いを求める気持ちに変わりはなく、以前と同じように王を欺きつつ密会を続けるうちに、ついに逢い引きの現場を押さえられ、トリスタンは宮廷から逃走することになる。

故国パルメニーエに戻った後、トリスタンは恋人と同名の「白い手の」イゾルデという女性と知り合い、その名に惹かれて好意を抱く。しかし運命の恋人イゾルデのことは忘れがたく、二人のイゾルデの間で心が揺れ動いていく・・・。(未完)

 

 詩人について
ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクはドイツにアーサー王物語を導入したハルトマン・フォン・アウエ(Hartmann von Aue)、聖杯物語『パルツィヴァール』(Parzival)を書いたヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ(Wolfram von Eschenbach)と並んで、ドイツ中世三大叙事詩人と称えられている。伝記的事実は一切残されていないが、マネッセ写本(大ハイデルベルク歌謡写本)その他で常に「マイステルmeister」という称号付きで呼ばれており、騎士階級の男性に対する「ヘルher」という称号が彼に対しては一度も使われていないことから、ハルトマン、ヴォルフラムとは異なり、騎士身分ではなかったと考えられている。「マイステル」は通常、聖職者としての教育を受けた者に与えられる称号だが、実際に聖職者であったかどうかは分からない。ゴットフリートの卓越した詩作能力を称える「名匠」といったような意味で使われた称号であるとも考えられている。


ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクの肖像画。修辞学の擬人像のアトリビュートでもある書字板を手に、文学サークルの中心人物として描かれている。(マネッセ写本 364r)
https://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/cpg848/0723/image(閲覧日2019.12.26)


ゴットフリートの作品としては未完に終わった『トリスタン』しか知られていない。叙事詩人ルドルフ・フォン・エムス(Rudolf von Ems)が作品内(『アレクサンダー』Alexander)でゴットフリートの抒情詩として挙げる2編は、テーマや文体から見てゴットフリート作と考えられないこともない。しかし一方この2編を他の詩人(ウルリヒ・フォン・リヒテンシュタイン Ulrich von Liechtenstein)の作として書記する写本もあり、伝承に混乱が見られるのも事実である。重要な歌謡写本(マネッセ写本など)にゴットフリートの作として書記されている作品は、おそらく偽作であるとされている。

実は『トリスタン』の作品内で、作者は自らの名を明かしていないのだが、プロローグ冒頭の折句(4行ごとの頭文字を拾っていくとG DIETERICH T Iとなり、TIはトリスタン、イゾルデ、DIETERICHはパトロンの名、そして冒頭のGが詩人を示すと考えられる)や、未完に終わった『トリスタン』の続編を創作したウルリヒ・フォン・テュルハイム(Ulrich von Türheim)、ハインリヒ・フォン・フライベルク(Heinrich von Freiberg)が、本編の作者をゴットフリートであると述べていることから、彼の作であることは間違いないと思われる。


『トリスタン』冒頭。4行ごとの行頭文字が折句になっているのが分かる。(ハイデルベルク写本 cpg360 1r)
https://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/cpg360/0009/image(閲覧日2019.12.26)

ゴットフリートの生没年はもちろん不明だが、おそらく1210年頃、作品の完成を見ずにこの世を去ったものと思われる(ウルリヒ・フォン・テュルハイムは続編の冒頭で、ゴットフリートが亡くなったことにより作品が未完に終わったと述べている)。言語的特徴からシュトラースブルク(ストラスブール)を含むエルザス(アルザス)地方の出身であると思われる。

 

 作品について
ゴットフリートはプロローグで、自らの作品の原典とすべきヴァージョンを探して文献逍遙したことを語る。
「私は知っている、トリスタンについて語った者が多くいることを。そしてまた、彼について正しく語った者は多くはなかったことを。〈中略〉正しく語らなかったと申し上げたのは、彼らがブリタニアのトマのようには語らなかった、ということなのだ。トマは語りの天才であり、ブリタニアの書物であらゆる君主の伝記を読み、それを我らに伝えてくれた。そのトマがトリスタンについて正しく語った真実の物語を、私はロマン語とラテン語の双方で必死に探し、そしてトマにならって詩作しようと努めた。そのように広範に探した結果、ついにトマの語りのすべてを納める本に辿り着いたのだ」(v.131-134, 146-166)

「ブリタニアのトマ」とは12世紀後半に古フランス語で『トリスタン』を書いた詩人で、彼の作品は宮廷風な要素を取り入れた「騎士道物語本」系に属する。同じくフランス語で『トリスタン』を物したベルールの作品はより口承に近い「流布本/俗本」系と呼ばれ、ドイツ語でトリスタン物語を書いたもう一人の詩人アイルハルト・フォン・オーベルク(Eilhart von Oberg)は、ゴットフリートとは異なり、こちらの系統の原典を用いて詩作した。

ゴットフリートの原典となったトマの作品は断片でしか残っておらず、しかもその大半がゴットフリートの筆が及ばなかった後半に集中しており、両者のテキストを比較してゴットフリートの詩作の独自性を解き明かすことは難しい。しかし恋人たちが媚薬を飲むシーンを含むトマの断片(カーライル断片)が1995年に発見され、ゴットフリートの原典の取り扱いについて、新たな事実が解明された。トマは、媚薬を飲んで恋に落ちた二人の喜びをアイルランドからコーンウォールへ向かう船上で、処女ではなくなったイゾルデが迎えねばならぬマルケ王との初夜への不安および侍女ブランゲーネを替え玉とする企みについてを上陸後にと、幸と不幸を分けて語っている。それに対しゴットフリートは、恋人たちの幸も不幸もすべて船上を舞台として語るように変更している。ストーリーの展開とは関係のない、一見些細な変更に見えるが、これはプロローグでも繰り返し強調されている「喜びと苦しみが愛においては表裏一体である」というゴットフリート独自のコンセプトの表れであり、ゴットフリートがトマの物語を「正しい」としつつも、完全な模倣を目指していたわけではないことが明らかになったのである。

 

 エクスクルス
ゴットフリートの『トリスタン』は、全体としてトマを踏襲しており、ストーリーラインに独自性があるわけではない。彼の物語を特徴付けるのは、その流麗な文体と、各所に挿入されて彼の文学論や恋愛論を開示する補説(「エクスクルス」)であろう。実際、ゴットフリート研究の多くがこの部分を対象にしている。エクスクルスはごく短いものも含めれば、作中に40あまりあると言われているが、ここでは長さ・内容ともに充実した5つのエクスクルスと紹介することにしよう。

1) プロローグ(v.1-244)
「この世に良きことをもたらす人が、良き人とされないのであれば、この世に起こる良きことはみな、すべて無と帰してしまうであろう(v,1-4)」と始まるプロローグでは、トマを原典として詩作することと並んで、これから語られるトリスタンとイゾルデの愛において、喜びと苦しみがあざなえる縄のごとく分かちがたいこと、そのような愛こそが美徳の源泉であること、そしてそのような愛を理解し実践することが出来る「高貴な心」をもつ人こそが、この物語を読むにふさわしい人間であることが語られる。苦しみを経て喜びに至るというアーサー王物語との違いが、冒頭から強調されていることになる。

2)文学エクスクルス(v.4555-4974)
トリスタンの刀礼式を語るにあたりゴットフリートは、その華やかさ素晴らしさを語るすべを自分は持たない、と自らの技量を卑下して見せた上で、ドイツの古今の詩人たちについて論評する。叙事詩において高く評価されるのはハルトマン・フォン・アウエで、月桂冠にふさわしい詩人であると賞賛される。これに対して「放恣な物語の作り手、物語の放蕩者」として厳しく糾弾されているのは、名指しはされないもののヴォルフラム・フォン・エッシェンバハであると考えられている。その他、叙事詩人として今ではその名のみ伝わるブリッガー・フォン・シュタイナハ(Bligger von Steinach)、ウェルギリウスの『アエネーイス』を素材とする『エネイーデ』(Eneide)の作者ハインリヒ・フォン・フェルデケ(Heinrich von Veldke)が高評価を得ている。抒情詩人としては、ラインマル・フォン・ハーゲナウ(Reinmar von Hagenau)、ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(Walther von der Vogelweide)が名人として挙げられている。

自らと同じ叙事詩人としてハルトマンを高く評価する理由としてゴットフリートは、「物語を内と外から、精神と言葉でもって完璧に彩り飾る(v.4622-25)」「その言葉は水晶のごとく濁りなく清らかである(v.4628-30)」という特徴を挙げているが、これはそのままゴットフリートの文体的特徴であるとも言えよう。これに対し常識破りの比喩や諧謔を織り交ぜるヴォルフラムの文体に嫌悪感を持っており、それが無視できぬほどの人気を持って迎えられていることを苦々しく思っているようすが、ゴットフリートの口ぶりから伺える。実在の詩人たちを取り上げて評価を述べるこのエクスクルスは、ドイツにおける初めての「文芸批評」であり、またここに登場する詩人たちのうちハインリヒ・フォン・フェルデケとラインマル・フォン・ハーゲナウが故人として語られていることは、作品の成立年代を推定する根拠ともなっている。

3)愛についてのエクスクルス(v.12183-12357)
媚薬を飲んだトリスタンとイゾルデが初めて結ばれる場面で挿入される「真の愛」についてのエクスクルスで、原典であるトマの作品にはなく、ゴットフリート独自の恋愛観が披露されている。彼によれば当代の人間は愛(の女神)を正当に扱ってはおらず、そのため愛は名ばかりのもの、売り買いされるものとなってしまっている。真の愛に不可欠な誠実な心が往々にして背を向けられがちであるなか、ここで語られる真の愛に不可欠な誠実さをもつトリスタンとイゾルデの物語は、同じく愛によってもたらされる喜びを味わいたいと望む人々の心を鼓舞するものとなるのである。

4)洞窟のアレゴリーのエクスクルス(v.16923-17099)
宮廷を追放されたトリスタンとイゾルデが隠れ住む理想の愛の空間である「愛の洞窟」を、ゴットフリートは、キリスト教教会建築を解釈する当時の神学テキストに倣って、アレゴリカルに意味解いていく。例えば洞窟は「円く、広く、高く、垂直で、雪のごとく白く、(壁は)どこもかしこも滑らか」(v.16929-30)であったが、それは愛が円のごとく単純で、その力は広く無限、愛により精神は高く舞い上がり、白く滑らかで傷のない誠実さを持つことを表現している、と解釈される。つまりゴットフリートは、恋人たちが愛のみに生きる空間を、聖なる空間として提示しているということになる。ゴットフリート版の『トリスタン』が「愛の宗教」と呼ばれる由縁である。

ゴットフリートは愛によって精神が飛翔し天上に至るとするが、この上昇のモデルは、古代ギリシャのプラトンにさかのぼる超越のモデルと重なる。当然ゴットフリートはそれを踏まえた上で詩作しているのであろうが、「愛の洞窟」ではこの上昇の起点が洞窟の中央に位置する恋人たちの寝台であるとされている点が他に例を見ない特徴で、精神的な愛を称揚し肉体的(性愛的)愛を貶めるプラトン由来の伝統的エロス観を、大胆に否定しているとも考えられる。

5)見張りのエクスクルス(V.17858-18114)
最後のエクスクルスは、トリスタンとイゾルデが「愛の洞窟」から宮廷に戻り、逢瀬がままならないという状況が描かれる中に挿入される。マルケ王はイゾルデがトリスタンに会わぬよう見張りを付けるが、そもそも婦人に対する見張りは無駄である。なぜなら悪しき婦人は見張りがあっても不品行に振る舞うものであり、正しい行いを心がける良き婦人に見張りの必要はないからである。それどころか見張りによって名誉を傷つけられれば、良き婦人でさえ誤った道に進みかねない。女性はすべからくイブの末裔であり、禁を犯すのがその性であるからだ。ここからゴットフリートは独自の女性論を展開する。女性でありながらそのような性に逆らい、欲望を抑えてその身と名誉を守ることが出来るとすれば、それは名こそ女性であるが、気質としては男性である。真の女性とは喜びと苦しみを抱えつつ欲望と名誉とを調和させ、自らを愛しまた人からも愛される女性であり、そのような女性に愛される男性こそ幸せなのである。

このように作品全体を見渡した場合、騎士貴婦人を主人公とする『トリスタン』は「障害のある愛」という宮廷風恋愛をテーマとした世俗の文学でありながら、ストーリーから離れて各所に挿入される「エクスクルス」を用いて、同時代の神学・哲学思想にも切り込んでいく野心的なテキストであったと言える。

 

 続編
ウルリヒ・フォン・テュルハイム(1235年頃)、ハインリヒ・フォン・フライベルク(1290年頃)の二人の詩人が、未完に終わったゴットフリートの作品の続きを創作している。しかし二人とも「騎士道物語本」系のトマのヴァージョンではなく、「流布本/俗本」系のアイルハルト・フォン・オーベルクの作品を基に続編を書いており、ゴットフリートの想定していた結末とは異なる可能性が高い。

 

 写本
13世紀から15世紀にかけて制作された29写本が現存している。このうち11が完本、加えて18の断片が残っている。現在おもに使われている校訂本の基になったのは13世紀後半成立のハイデルベルク写本(H写本、Cpg 360)で、冒頭の折句が色付き大文字で記されている。挿絵入り写本はミュンヘン写本(M写本、Cgm 51)、ケルン写本(B写本、Cod. W 88*)、ブリュッセル写本(R写本、ms.14697)の3写本で、中でも13世紀前半に制作されたミュンヘン写本では全面挿絵15葉両面に、全118シーンに渡る絵物語が繰り広げられ、当時の文学受容のあり方を探る手がかりとして幅広い研究分野において注目されている。

ミュンヘン写本の挿絵(Cgm51 76r)
「泉のほとりの密会」のシーン。

上から

・密会の合図の木片を流すトリスタン
・逢い引きを目撃する小人
・木の上から恋人たちを覗き見るマルケ王

https://daten.digitale-sammlungen.de/0008/bsb00088332/images/index.html?fip=193.174.98.30&seite=155&pdfseitex=(閲覧日2019.12.26)

 

 後世の受容
ルドルフ・フォン・エムス、コンラート・フォン・ヴュルツブルク(Konrad von Würzburg)といった叙事詩人は、自らの作品内でゴットフリートを高く評価している。またゴットフリートの作品を含むドイツ語版トリスタン物語は、14世紀後半のチェコ語版トリスタンの原典となっている。

ゴットフリートの作品は15世紀に至るまで写本に書き残されているが、ドイツでより広く普及したのはアイルハルトの『トリストラント』(Tristrant)の方で、1484年にドイツ語版トリスタン物語として初めて印刷本となった『トリストラントとイザルデ』(Tristrant und Isalde)はアイルハルト版を基に散文化されたテキストである。ゴットフリートの作品は印刷本にはなっていない。

18世紀末に写本が再発見されて以降、ゴットフリートの『トリスタン』は中世ドイツ叙事文学の最高峰のひとつという評価を与えられ、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』(Tristan und Isolde 1865)の原典となった(ただし、ワーグナーは全三幕という時間枠に収まるよう、ゴットフリートの作品を換骨奪胎している)。

 

 参考文献

中世ドイツ語・現代ドイツ語訳
Gottfried von Straßburg: Tristan. 3 Bde. Hg. von Karl Marold und übers. von Peter Knecht. Berlin/New York 2004.
Gottfried von Straßburg: Tristan. 3 Bde. Hg. und übers. von Rüdiger Krohn. Stuttgart 2005.
Gottfried von Straßburg: Tristan und Isold. 2 Bde. Hg. von Walter Haug und Manfred Günter Scholz, mit dem Text des Thomas, hg., übers. und kommentiert von Walter Haug. Berlin 2011.

日本語訳
ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタンとイゾルデ』石川敬三訳  郁文堂 1976年

参考文献
 ゴットフリートおよび『トリスタン』に関する文献は数多くあるので、ここでは作品を概説した3本を挙げておく。巻末の文献表が充実しているので、参照のこと。

Huber, Christoph: Gottfried von Straßburg. Tristan(=Klassiker Lektüren 3). Berlin 2013.
Schulz, Monika: Gottfried von Straßburg: ›Tristan‹. Stuttgart 2017.
Tomasek, Tomas: Gottfried von Straßburg (Reclams Universal-Bibliothek; Nr. 17665) . Stuttgart 2007.

ウェブサイト
https://gutenberg.spiegel.de/autor/-gottfried-von-strassburg-231(グーテンベルク・プロジェクト、中世ドイツ語のテキストと現代語訳)
https://www.hs-Augsburg.de/~harsch/ germanica/Chronologie/13Jh/Gottfried/got_intr.html(中世ドイツ語のテキスト)
http://www.handschriftencensus.de/werke/135(『トリスタン』の写本一覧、M写本の挿絵も見ることが出来る)

 
記事作成日:2020年2月25日  
最終更新日:2020年2月25日

 

 

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