The International Arthurian Society - 国際アーサー王学会日本支部

「アーサー王物語」への神話学的アプローチ―「グラアルの行列」の解釈を例に―

渡邉浩司 (中央大学教授)

 

【はじめに】
 中世ヨーロッパの文学作品をテーマに研究を進める場合、まずは対象となる作品の校訂本を入手し、写本伝承に留意しながら原典を解読することが最初のステップです。次に、その作品の解釈に挑む場合、先行研究を参照しなければなりません。しかし著名な作家や作品を選択すると、蓄積された膨大な先行研究のリストを前にして戸惑い、新しい見解を出すことが果たして可能かどうか自問することになるでしょう。私自身は大学院生の頃、「アーサー王物語」の実質的な創始者であるクレティアン・ド・トロワ(従来の表記ではクレチアン・ド・トロワ、Chrétien de Troyes)に関心を持ち、研究者としての第一歩を踏み出しました。しかし先行研究のあまりの多さに、大海へ放り出されたような気分になりました。

 クレティアンの遺作『ペルスヴァルまたはグラアルの物語』(Perceval ou Le Conte du Graal、以下『ペルスヴァル』と略記。1181~1190年頃)をテーマにフランス語で書いた修士論文が、名古屋大学で受理されたのは1990年3月のことでした。当時、先行研究を探すのに重宝したのは、ダグラス・ケリーが1976年に刊行した『クレティアン・ド・トロワ―分析的書誌』でした。この書誌には、1970年代後半までに出された研究書や学術論文のタイトルが、テーマやアプローチごとに分類されていました。もちろんすべての文献をフォローすることはできず、修士論文では今は亡き神沢栄三先生のご指導のもとで、修辞学や物語論の観点から『ペルスヴァル』を分析するに留まりました。

 その後、1992年夏から1年間、フランスのグルノーブル第3大学で留学生活を送る機会に恵まれ、フィリップ・ヴァルテール先生から「神話学的アプローチ」を学びました。それはジョルジュ・デュメジルの比較神話学、クロード・ゲニュベの民族(俗)学、アンリ・ドンタンヴィルが創設した「フランス神話」学会の提唱する地方誌的な研究の成果などに基づくアプローチです。当時のグルノーブル第3大学には、ジルベール・デュランらが創設したイマジネール研究所(通称CRI)があり、研究員たちが進めていた学際的な研究の成果からも多くのことを学びました。

 1996年3月に名古屋大学で受理された課程博士論文で私は、クレティアン・ド・トロワの物語群に対して、従来の「修辞学的アプローチ」と新たな「神話学的アプローチ」の双方から分析を試みました。視点の異なるこの2つのアプローチは排除しあうものではなく、相補的な関係にあります。しかしながら「神話学的アプローチ」は国際アーサー王学会の中でも、いまだに正統な評価を受けてはいません。そのため本稿では、このアプローチを紹介するため、事例研究として『ペルスヴァル』前半に出てくる「グラアルの行列」をめぐる解釈を取り上げたいと思います。なお本稿では『ペルスヴァル』のテクストとして、プレイヤッド版『クレティアン・ド・トロワ全集』(1994年)に収録されたダニエル・ポワリヨンの校訂本をテクストとして使います。ちなみに『ペルスヴァル』には天沢退二郎先生による邦訳があり、神沢栄三先生訳の『ランスロまたは荷車の騎士』とともに、白水社『フランス中世文学集2』(1991年)に収録されています。

 

【1.ペルスヴァルの漁夫王の城訪問と「剣」の授受】
 『ペルスヴァル』前半のハイライトは、少年ペルスヴァル(Perceval、英語名パーシヴァル)が漁夫王(Roi Pêcheur)の館で夕食前と夕食中に目撃する不思議な行列です。行列を構成するのは順に、1人の小姓が持つ先端から血の滴る「槍」、美しい乙女が捧げ持つ黄金製の「グラアル」、最後に別の乙女が持つ銀製の「肉切板」です。元来「グラアル」(graal)という語は、食事用の大皿を指す普通名詞に過ぎませんでしたが、クレティアンはこのオブジェに超自然的なオーラをまとわせ、後の物語作家たちの創作意欲を掻きたてました。「グラアル」が十字架上のキリストの脇腹から流れ出た血を受け取った杯(いわゆる「聖杯」)に変貌するのは、ロベール・ド・ボロン(Robert de Boron)の『聖杯由来の物語』(1200年頃成立)以降のことです。

 漁夫王の館でのペルスヴァルに戻りましょう。彼は「グラアル」の行列を目撃しながらも、先に騎士道の師匠ゴルヌマン・ド・ゴオール(Gornemant de Gohort)から受けた⦅口数多き者は、罪を犯す⦆(’Qui trop parole pechié fet’、第1654行)という忠告を鵜呑みにし、心に浮かんだ「槍」と「グラアル」に関する質問を控えてしまいます。翌日、漁夫王の城を後にしたペルスヴァルは、道中で出会った従姉から、彼が城でしかるべき質問をしていれば、怪我で苦しむ王が自分の健康と領土の繁栄を同時に回復できたことを知らされます。行列を前にしたペルスヴァルの沈黙は、従姉が触れ、後に登場するペルスヴァルの伯父にあたる隠者も追認するように、自分が生まれ育った館から出立することで母を悲しみのあまり死に追いやった、ペルスヴァルの犯した罪の結果なのだと作中では説明されます。

 未完に終わった『ペルスヴァル』では、ペルスヴァルが再度漁夫王の城に赴いて使命を完遂する場面が欠落していますが、先述した使命の失敗は少なくとも、ペルスヴァルがたどるはずの数奇な運命を示唆しています。さらに、この類いまれな試練の有資格者が他ならぬペルスヴァルであることは、漁夫王の館での食事に先立つ場面に見られる「剣」の授受が明らかにしています。物語によると、城内に案内されたペルスヴァルが漁夫王と話し合っている最中に、1人の小姓が1振りの見事な剣を持参し、漁夫王に手渡します。漁夫王は⦅この剣はそなたのものとなるよう定められ、運命づけられたもの⦆(’ceste espee / Vos fu jugiee et destinee’、第3167~68行)であると言って、ペルスヴァルにこの剣を与えます。「グラアル」の行列はこの後に開始されます。

 『ペルスヴァル』を扱った先行研究では、「グラアル」と「槍」の起源やその象徴的意味に過剰な光があてられてきましたが、本稿では「グラアル」と「槍」だけでなく、行列の3つ目の構成要素である「肉切板」、さらにはペルスヴァルに漁夫王から授けられた「剣」をも含めた4つのオブジェ全体が意味をなす解釈を探ってみたいと思います。

 

【2.「グラアルの行列」をめぐる従来の解釈】  
 この不思議な行列では、先端から血の滴る「槍」、黄金製の「グラアル」、銀製の「肉切板」が順に運ばれていきます。クレティアン・ド・トロワ以降、韻文や散文で書き継がれていく膨大な物語群の中で「グラアル」は、キリストの聖遺物としての「聖杯」へと変貌し、それ自体で「円卓」騎士団にとっての「探索」の対象となります。しかし『ペルスヴァル』の行列の場面では、「グラアル」は決して孤立したオブジェではなく、他のオブジェとの関連で初めて意味をなすものだと考える方が理にかなってはいないでしょうか。

 さらに漁夫王の城での饗宴前に登場する「剣」については、元来はひとまとまりのモチーフの一部であった可能性は捨てきれません。なぜなら、『ペルスヴァル』では「剣」と「槍」が、ペルスヴァルを主人公とする物語前半と、ゴーヴァン(Gauvain、英語名ガウェイン)を主人公とする物語後半のいずれにも登場するからです。ペルスヴァルが手にする「剣」はゴーヴァンが挑む冒険に現れる「不思議な革帯の剣」に対応し、行列中の血の滴る「槍」はエスカヴァロン(Escavalon)王が入手を切望する恐るべき「槍」に対応しています。作品の前半と後半に登場するこれらのオブジェが同一のものではないとしても、同じイメージの喚起力により、2人の主人公の冒険群を結びつけている点は重要です。この点については拙著『クレチアン・ド・トロワ研究序説』(2002年)第II部第1章をご参照下さい。

 「グラアル」については、物語後半に挿入されたペルスヴァルが再登場する約300行のエピソードで、ペルスヴァルの伯父にあたる隠者により、ペルスヴァルをめぐる一族との関連で秘密の一端が明かされます。このように『ペルスヴァル』全体を視野に入れると、「剣」「槍」「グラアル」という3つのモチーフが継続して読者=聴衆に注意を喚起するのに対し、行列中の「肉切板」だけは説明されずに放置されたモチーフに留まっています。行列を前にしたペルスヴァルの脳裏に「槍」と「グラアル」に関する質問しか浮かばなかったことも、研究者たちの間で、想定される元来のモチーフ複合から「肉切板」を除外する考え方を後押しすることになったと思われます。

「グラアル」の行列の解釈については、錬金術的解釈やカバラ的解釈、精神分析学的解釈を別にすれば、ジャン・フラピエが『聖杯の神話』(天沢退二郎訳、1990年)第8章で総括したように、大別してこれまでに3種類の説が出されてきました。

 ①ミルラ・ロー=ボロディーヌ、K.ブルダッハ、アレクサンドル・ミシャに代表される「キリスト教起源説」によれば、「グラアル」は聖体器(シボワール)か聖盃(カリス)、「肉切板」は聖体皿(パテナ)、「槍」は聖槍(十字架上のキリストの脇腹を刺した槍)と解釈されます。また行列は、在宅のままの病人に与えられる聖体拝領の典礼、あるいはビザンティンの儀式、ギリシア正教会における儀式と関連づけられることもありました。しかしながらクレティアンの描く行列に、これほど徹底したキリスト教的な典礼の意味を見出すことは不可能です。そもそも行列の中で「グラアル」を捧げ持つのが男性ではなく女性であることが、この説の妥当性を危うくしています。

 ②ジェシー・ウェストンの『祭祀からロマンスへ』に代表される「異教儀式説」によれば、豊穣と農耕に関するオリエントの異教神話が伝説の中核をなし、「槍」と「グラアル」は性的象徴として解釈されます。フレーザーの『金枝篇』から着想を得たこの説は、東方の宗教神話と「グラアル」の行列との漠然とした類似を根拠としているため牽強付会の印象を免れませんが、少なくとも王国の不幸と不毛が王の負った怪我と密接に結びつき、怪我の治癒が豊穣をもたらす鍵であることを示唆している点は重要です。

 ③「キリスト教起源説」や「異教儀式説」以上に賛同者が多いのは、ロジャー・シャーマン・ルーミス、ジャン・マルクスらが提唱した「ケルト起源説」です。実際にアイルランドやウェールズの神話物語には、『ペルスヴァル』で用いられているモチーフの多くを説明できる比較項が認められます。例えば「グラアル」については、異界の財宝や護符に属する豊穣の釜、大盃や皿、籠、飲料用の角などが、「槍」については、ルグの槍、オイングスの槍、マク・ケーフトの槍、ケルトハルの槍といった恐るべき復讐と破壊の武器が、有力な比較項として見つかります。

 以上3つの説のうち、「ケルト起源説」は、「グラアル」の行列を前後の文脈から恣意的に切り離して解釈しない点で、「キリスト教起源説」に対して優位に立っています。しかしながら行列自体の解釈に戻れば、「ケルト起源説」は、「肉切板」を解釈から除外している点に難があります。『ペルスヴァル』の作品世界の中では説明されないモチーフではあっても、作業仮説としては、元来は「肉切板」も「剣」「槍」「グラアル」と併せて、全体で一貫したモチーフ群をなしていたと考えるのが妥当だからです。

 

【3.「王家の神器」としての一連のオブジェ】
 こうした従来の説と比較した場合、より説得力を持ってくるのは、ジョエル=アンリ・グリスヴァルド、フィリップ・ヴァルテールらが提唱している説です。主として神話学者ジョルジュ・デュメジルの著作から着想を得たこの説を、ここでは仮に「インド=ヨーロッパ起源説」と呼んでおきたいと思います。ヴァルテールが『ペルスヴァル、漁夫王と「グラアル」』(2004年)の中で指摘しているように、『ペルスヴァル』が未来の王あるいは、王権を託すことのできる若者を選出するための通過儀礼の物語であるなら、「剣」「槍」「グラアル」「肉切板」という4つの品は全体で「王家の神器」として、通過儀礼に挑む若者ペルスヴァルが王権獲得のために適格であるか否かを試すために登場したと考えられます。

 「王家の神器」については、デュメジルが1941年に公刊した『ユピテル・マルス・クイリヌス』の中で神話学的に考察しており、そこに挙げられたスキタイとアイルランドの神器授受伝説は示唆的です。

 ①スキタイの例は、ヘロドトスの『歴史』巻4の517によれば、タルギタオスの三男コラクサイスが天から落ちてきた燃える一連の黄金の器物、つまり「犂」と「軛」、「斧」、「盃」を獲得して王族の祖となり、その後歴代の王が一連の器物を何にもまして大切に保存し、年毎に盛大な生贄を捧げて神のごとく祀ったというものです。ここに登場するオブジェは、個々に取り上げれば、インド=ヨーロッパ語族に特有の3つの社会的機能のいずれかを象徴しています。祭具、武器、農具がそれぞれデュメジルの言うところの第1機能(主権性・神聖性)、第2機能(戦闘性・力強さ)、第3機能(生産性・豊穣性)を象徴し、ヘロドトスの例では「盃」、「斧」、「犂」と「軛」が3機能の各々に対応しています。これらを1つにまとめあげれば、統一王権の神器という性格を帯びてきます。

 ②これに相当するアイルランドの例としてデュメジルが挙げているのは、トゥアタ・デー・ダナン族がアイルランド征服のために上陸したときに、北方の4つの島から4つの品を携えてきたという話です。デュメジルが引用しているのは『レカンの黄書』と『バリーモートの書』の一節の冒頭ですが、『マグ・トゥレドの第2の戦い』の最初の数節では次のようになっています。ここではクリスティアン・ギュイヨンヴァルフの『アイルランドの神話文献1』第1巻(1980年)から拙訳を紹介します。

 1 トゥアタ・デー・ダナンは世界の北方の島々にいて、学問、呪術、ドルイドの術、英知、技芸を学んだ。そこで彼らはあらゆる術に通じた異教の賢人たちを凌駕した。

 2 4つの町があった。彼らはそこで学問、学識、魔術を学んだ。4つの町とは、ファリアス、ゴリアス、ムリアス、フィンディアスである。

 3 ファリアスからはファールの石が持ってこられた。この石はタラにあり、王がアイルランドを手中に収める度に叫び声をあげた。

 4 ゴリアスからはルグ所有の槍が持ってこられた。この槍や、それを手にしている者を前にすれば、いかなる戦いも勝ち目がなかった。

 5 フィンディアスからはヌアドゥの剣が持ってこられた。ボドヴの鞘から引き抜かれたら、誰もこの剣から逃れられず、それに太刀打ちできなかった。

 6 ムリアスからはダグダの大釜が持ってこられた。集まった客たちは満腹にならずにこの大釜から立ち去ることはなかった。

トゥアタ・デー・ダナンの宝についてデュメジルは、「ルグの槍」と「ヌアドゥの剣」については第2機能の表現と見ましたが、「ダグダの大釜」と「ファールの石」については、それぞれ呪術用具(第1機能)と王国の地(第3機能)を表すものと解釈しています。デュメジル自身も指摘している通り、1888年以来アルフレッド・ナットは、「グラアル」の行列に現れるオブジェをトゥアタ・デー・ダナン族の宝と関連づけており、ナットに続いてアーサー・C・L・ブラウンもこの関連づけを再検討しました。1941年のデュメジルの見解は、「グラアル」研究に比較神話学の立場から新たな照明をあてるものでした。

 

【4.第1機能を象徴する「グラアル」】
 グリスヴァルドは、1979年の論考ではこのデュメジル説を受け入れていましたが、1983年の論考では、ギュイヨンヴァルフの見解をもとに、「ファールの石」は第1機能、「ダグダの大釜」は第3機能の表現であるという見方に修正しています。アイルランドの「大地の臍」とも言うべき「ファールの石」は声を発することで正当な支配者を判別するため明らかに主権機能に関わっており、「ダグダの大釜」は無尽蔵な食物供給という機能を持つからです。

 「王家の神器」をめぐる以上の議論を踏まえて、グリスヴァルドは『ペルスヴァル』の不思議な行列に登場する「肉切板」を、他のオブジェから分離することなく本来の位置に戻すことを提唱しました。その上で「グラアル」を第1機能、「剣」と「槍」を第2機能、「肉切板」を第3機能の表現と考え、その全体を漁夫王所有の「王家の神器」とするならば、「剣」を授かった直後にペルスヴァルが目撃した行列の一連のオブジェは、王の後継者となる若者が獲得すべき、社会の3機能の理想的統合を象徴する形象ということになります。「ファールの石」と「グラアル」の関連については、クレティアン作『ペルスヴァル』の中高ドイツ語による続編とも言うべき、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ(Wolfram von Eschenbach)作『パルチヴァール』(Parzival)(1210年頃成立)で、「グラアル」が「石」(おそらく宝石)だと明示されている点がきわめて重要です。

 このように、「剣」をインド=ヨーロッパ語族の古い伝承を踏まえた「王家の神器」の一部として理解すれば、王の後継者を選出するための通過儀礼に他ならない城での饗宴に先立って、なぜ漁夫王が試練の有資格者であるペルスヴァルに迷わず「剣」を授けたかを理解することができます。また、『ペルスヴァル』後半でペルスヴァルの伯父にあたる隠者が明らかにするように、漁夫王の父とペルスヴァルの母と隠者が兄弟姉妹の間柄であることから、漁夫王とペルスヴァルは従兄弟どうしであることが分かります。また「剣」を城に届けさせるのが漁夫王の姪であることは、「剣」の授受がペルスヴァルの一族に関わる問題であることの証なのです。

 

【おわりに】
 本稿では、中世ヨーロッパの「アーサー王物語」へのアプローチの1つとして「神話学的アプローチ」を紹介するため、具体的な事例として『ペルスヴァル』前半に出てくる「グラアル」の行列をめぐるさまざまな解釈に焦点をあてました。「神話学的アプローチ」に基づく「インド=ヨーロッパ起源説」によれば、従来の諸説よりも説得的に「グラアル」の行列を解釈できるように思います。さまざまな言語で書かれた中世ヨーロッパの「アーサー王物語」には、謎の解明が待たれているモチーフやエピソードが数多く残されており、本稿で取り上げた「グラアル」の行列はほんの一例にすぎません。こうした多くの謎を解くための一助になるのは、フィリップ・ヴァルテールが2014年に刊行した『アーサー王神話事典』です。2018年に刊行した拙訳を通して、「神話学的アプローチ」の成果を堪能していただけましたら幸いです。なお「グラアル」の行列の構成要素の1つである「血の滴る槍」については、季節神話からの別の神話学的解釈も可能です。この解釈については、『フランス-経済・社会・文化の実相』(2016年)所収の拙稿をご参照下さい。

 本稿の「はじめに」で触れたダグラス・ケリーは、『クレティアン・ド・トロワ―分析的書誌』の「補遺1」を2002年に刊行しました。前作が1976年の刊行であり、その後の4半世紀に出された研究書や学術論文のタイトルをフォローするのが目的でした。この「補遺1」には世界中の研究業績を網羅するため複数の書誌担当が参加し、日本の書誌については私が担当しました。こうして完成した「補遺1」は582ページの大著になり、153ページだった1976年の書誌の約4倍の分量に達しました。1970年代後半から新世紀に向けての時期には、新たなアプローチが誕生し、私が今も実践している「神話学的アプローチ」もその1つです。そのためケリーは「補遺1」へ新たに、「フェミニズム」「比較文学」「(ポスト)現代批評」と並んで「人類学と神話学」という項目を立て、本稿でも取り上げたフィリップ・ヴァルテールの著作や学術論文のほか、拙稿のタイトルを複数収録しています。月日の経過は早く、この「補遺1」の刊行からすでに17年目を迎えています。将来「補遺2」が刊行されることがあれば、「人類学と神話学」の項目には相当数のタイトルが収められることになるでしょう。

 

【参考文献】

・クレティアン・ド・トロワ関連書誌(本稿で言及したもの)

Kelly, Douglas, Chrétien de Troyes : an analytic bibliography, Grant & Cutler Ltd, 1976.
--- Chrétien de Troyes. An Analytic Bibliography, Supplement 1, London, Tamesis, 2002 (with Maciej Abramowicz, Katalin Halász, Ceridwen Lloyd-Morgan, Mihaela Voicu, Kôji Watanabe).
Watanabe, Kôji, « Bibliographie générale des études sur Chrétien de Troyes au Japon », 中央大学『仏語仏文学研究』第31号、1999年、pp. 1-21.

・クレティアン・ド・トロワ『ペルスヴァル』の校訂本(本稿で言及したもの)

Perceval ou Le Conte du Graal, Texte établi, présenté et annoté par Daniel Poirion, dans : Chrétien de Troyes, OEuvres complètes, Paris, Gallimard, Bibliothèque de la Pléiade, 1994.

・翻訳(本稿で言及したもの)

クレチアン・ド・トロワ(神沢栄三訳)『ランスロまたは荷車の騎士』(『フランス中世文学集2』白水社、1991年、所収)。
クレチアン・ド・トロワ(天沢退二郎訳)『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』(『フランス中世文学集2』白水社、1991年、所収)。
ロベール・ド・ボロン(横山安由美訳)『聖杯由来の物語』(松原秀一+天沢退二郎+原野昇編『フランス中世文学名作選』白水社、2013年、所収)
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ(加倉井粛之+伊東泰治+馬場勝弥+小栗友一訳)『パルチヴァール』、郁文堂、1974年。
ヘロドトス(松平千秋訳)『歴史(中)』岩波文庫、1972年。

・日本語で書かれた研究(本稿と関連するもの。翻訳された著書や論文を含む)

ヴァルテール、フィリップ(渡邉浩司訳)「『聖杯の書』または13世紀散文⦅聖杯物語群⦆の誕生―ボン大学図書館526番写本をめぐって」、中央大学『仏語仏文学研究』第44号、2012年、pp. 211-234。
ヴァルテール、フィリップ(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)『中世の祝祭 伝説・神話・起源』原書房、2007年(第2版2012年;第3版2015年)。
ヴァルテール、フィリップ(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)『アーサー王神話大事典』原書房、2018年 [書評:宮下志朗『流域』第83号、2018年11月、pp. 14-19;椿侘助『中央評論』(中央大学)通巻第307号、2019 年 5月、pp.120-126]。
ヴァルテール、フィリップ(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)『英雄の神話的諸相―ユーラシア神話試論I』中央大学出版部、2019年。
ウェストン、J・L(丸小哲雄訳)『祭祀からロマンスへ』法政大学出版局、1981年。
デュメジル、ジョルジュ(川角信夫・神野公男・道家佐一・山根重男訳)『ユピテル・マルス・クイリヌス』、丸山静・前田耕作編『デュメジル・コレクション1』(ちくま学芸文庫、2001年)所収。
フラピエ、ジャン(天沢退二郎訳)『聖杯の神話』筑摩書房、1990年。
フレーザー(永橋卓介簡訳)『金枝篇』全5巻、岩波文庫、1951~1952年。
渡邉浩司『クレチアン・ド・トロワ研究序説 修辞学的研究から神話学的研究へ』、中央大学出版部、2002年。
---「ペルスヴァルに授けられた剣と刀鍛冶トレビュシェットの謎-クレチアン・ド・トロワ作『聖杯の物語』再読―」(『続 剣と愛と 中世ロマニアの文学』中央大学出版部、2006年、pp.169-217)。
---「クレチアン・ド・トロワ」(原野昇編『フランス中世文学を学ぶ人のために』世界思想社、2007年、pp. 53-62。
---「古フランス語散文⦅アーサー王物語⦆の⦅サイクル化⦆-プレイヤッド版『聖杯の書』所収『アーサー王の最初の武勲』を手がかりに」(佐藤清編『フランス-経済・社会・文化の諸相』中央大学出版部、2010年、pp.93-132)
---「13世紀における古フランス語散文⦅聖杯物語群⦆の成立」、中央大学『人文研紀要』第73号、2012年、pp. 35-59.
---「ゴーヴァンの異界への旅―クレティアン・ド・トロワ作『聖杯の物語』後半再読」(『アーサー王物語研究 源流から現代まで』中央大学出版部、2016年、pp.145-194)。
---「クレティアン・ド・トロワ作『聖杯の物語』前半における⦅血の滴る槍⦆の謎」(宮本悟編『フランス-経済・社会・文化の実相』中央大学出版部、2016年、pp. 237-269)。
吉田敦彦「比較神話学と口承文芸」(日本口承文芸学会編『シリーズことばの世界 第1巻 つたえる』三弥井書店、2008年、pp. 225-235。

・欧文で書かれた研究(本稿と関連するもの)

Brown, Arthur C. L., « The Grail and the English Sir Perceval », Modern Philology, 16, 1919, pp. 553-568; 17, 1919, pp. 361-382; 18, 1920-21, pp. 201-228 and 1921, pp. 661-673 ; 22, 1924, pp.79-96 and pp.113-132.
Grisward, Joël H., « Des talismans fonctionnels des Scythes au cortège du Graal », dans : Jean-Claude Rivière et al, Georges Dumézil à la découverte des Indo-Europeens, Paris, Copernic, 1979, pp. 205-211.
--- « Des Scythes aux Celtes. Le Graal et les talismans royaux des Indo-Europeens », Artus, 14, 1983, pp.15-22.
Guyonvarc’h, Christian-J., Textes mythologiques irlandais I, Volume I, Rennes, Ogam-Celticvm, 1980.
Lozachmeur, Jean-Claude, L’énigme du Graal, Fabrica Libri, 2011.
Nutt, Alfred, Studies on the Legend of the Holy Grail, London, Publications of the Folk-Lore Society, 1888.
Vigneron, Fleur et Watanabe, Kôji (dir.), Voix des mythes, science des civilisations. Hommage à Philippe Walter, Peter Lang, 2012.
Walter, Philippe, Perceval, le pêcheur et le Graal, Paris, Imago, 2004. [書評:渡邉浩司『仏語仏文学研究』(中央大学)第37号、2005年、p.193-211]
--- Dictionnaire de mythologie arthurienne, Paris, Imago, 2014.
Watanabe, Kôji, «"Paroemia" comme enjeu mythologique ―A propos des études parémiologiques chez Chrétien de Troyes »、『名古屋大学人文科学研究』第24号、1995年、pp. 1-16.
Watanabe, Kôji, « L'ironie dans l'oeuvre de Chrétien de Troyes : de l'approche rhétorique à l'approche mythologique (présentation de thèse) », Perspectives Médiévales, 22, 1996, pp.80-84.
--- « L’hameçon et le mors, Hoori et Gauvain —Essai sur le motif d’une pièce métallique permettant le mariage », dans : Tous les hommes virent le même soleil. Hommage à Philippe Walter, Etudes réunies par Kôji Watanabe, Tokyo, CEMT Editions, 2002, pp. 133-140.
--- « Parole surestimée / parole sous-estimée : à propos de la structure du Conte du graal de Chrétien de Troyes »、中央大学『仏語仏文学研究』第36号、2004年、pp. 203-243.
--- «Trébuchet, Wieland et Reginn. Le mythe du forgeron dans la tradition indo-européenne», dans : Formes et difformités médiévales. Hommage à Claude Lecouteux, Paris, PUPS, 2010, pp. 233-243.
--- « Les rites funéraires dans les romans arthuriens en vers des XIIe et XIIIe siècles », dans : Mythes, rites et émotions. Les Funérailles le long de la Route de la soie, Paris, Honoré Champion, 2016. pp.51-71.

 
記事作成日:2019年8月21日  
最終更新日:2019年9月6日

 

 

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