ガーヴァーン【独】
ガウェイン(英:Gawein)に対応する中高ドイツ語[中世ドイツ語]表記は作品によって異なる。
表記のバリエーションと主要作品
ガーヴァーン(Gâwân)
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ(Wolfram von Eschebach):『パルチファール(Parzivâl)』
ガーヴェイン(Gâwein)
ハルトマン・フォン・アウエ(Hartmann von Aue):『イーヴェイン(Îwein)』および『エーレク(Êrec)』
デア・シュトリッカー(Der Stricker):『花咲く谷のダーニエル(Daniel von dem blühenden Tal)』
ヴァールヴェイン(Wâlwein)
ウルリヒ・フォン・ツァツィクホーフェン(Ulrich von Zatzikhoven):『ランツェレット(Lanzelet)』[1]
また、アイルハルト・フォン・オーベルク:『トリストラント(Tristrant)』にもヴァルヴァーン(Walwan)の表記で登場する。[2]
※ 以降、一般的事柄の説明においては「ガーヴァーン」の表記を用いる
ガーヴァーンの身分・出自
ガーヴァーンがアルトゥース王(英:アーサー王)の甥であることは、直接的に言及されていない作品はあるものの、共通認識として通用している。
『パルチファール』および『ランツェレット』にはガーヴァーンを「ロート王の息子」あるいは「アルトゥース王の妹の息子」[3]と呼称している箇所がある。また、ロート王はノルウェー人であり、ガーヴァーンに対しても「ノルヴェーゲの人」(Parzivâl, 387,14)という呼称も見られる。
「騎士の鑑」としてのガーヴァーン
とりわけ『イーヴェイン』、『パルチファール』、『ランツェレット』におけるガーヴァーンは、騎士の中の騎士、「恥ずべき行いを一度もしたことのない」騎士として描かれている(Parzivâl, 338,1)。
各々の作品の主人公はその「騎士の鑑」たるガーヴァーンと決闘を行い、互角の力量を示すことによって、アルトゥース王の宮廷に出入りする資格を得る、あるいは円卓(Tavelrunde)の一人として迎え入れられる。[4]
ガーヴァーンは、「主人公の成長物語」において、主人公の成長過程に立ちはだかるいわば通過儀礼的存在とも言える。[5]
これは、内膳頭ケイイと並んで、いわゆるシリーズものにおけるパターン化された登場人物の典型と言えよう。
『イーヴェイン』におけるガーヴェイン
ガーヴェインは、ラウディーネと結婚してすぐの親友イーヴェインに、かつて美しい妻を娶ったエーレク(Êrec)が騎士の務めを忘れてしまったがために酷い目にあったことを引き合いに出し、武者修行を怠ってはならないと助言をする。この助言に従ってイーヴェインは、妻ラウディーネから一年の猶予をもらい、ガーヴェインと共に日々冒険に明け暮れるが、約束の期日を忘れた挙句、ラウディーネから三下り半を突き付けられ、発狂してしまうことになる。その直接的な原因となったのが騎士の鑑たるガーヴェインの、友を思っての正当な助言だったことはなんとも皮肉である。
名誉回復の旅を経て成長した「獅子を連れた騎士」イーヴェインとの決闘では、丸一日死力を尽くす戦いを繰り広げるも決着がつかず、一時休戦した際に、冑を脱ぎ、お互いに名を明かすことで、対戦相手が誰であったかを知る。この決闘を経て、イーヴェインはアルトゥース王の宮廷での名誉の回復(以前にも増す賞賛)と妻ラウディーネとの和解へと至る。
このイーヴェインの転落と回復自体が、ガーヴェインの助言から始まり、ガーヴェインとの決闘で幕を閉じるという構図も見えよう。
『パルチファール』におけるガーヴァーン
『パルチファール』(全16巻)では、主人公パルチファールと並んで、ガーヴァーンの「冒険(âventiure)」にかなりの紙片を割いてパラレルに展開される(第7、8、10、11、12、13巻)。
ガーヴァーンは3人の貴婦人への奉仕(Frauendienst)をこなしつつ、「魔法の城シャステル・マルヴェイレ」の冒険を乗り越え、祖母にあたるアルニーヴェ、母ザンギーヴェ、二人の妹イトニエーおよびクンドリーエを救い出す。
奇しくも魔法の城の冒険が親族の救出劇を兼ねていることで、アルトゥース王家に連なるガーヴァーンは「世俗的騎士道」における最高の名誉を得る一方、聖杯守護を司るティトゥーレ王家に連なるパルチファールは「キリスト教騎士」として聖杯王に至るという構図が見て取れる。
『ランツェレット』におけるヴァールヴェイン
ウルリヒ・フォン・ツァツィクホーフェンの『ランツェレット』は、とりわけクレチアン・ド・トロワの『ランスロ』との大きな相違に目を奪われる。
王妃の拉致と奪還のみに焦点をあてた『ランスロ』とは異なり、『ランツェレット』は主人公の生い立ちから玉座に就くまでの人生譚となっているだけでなく、王妃の拉致奪還のエピソードそのものも大きく異なる。
そもそもランツェレットと王妃は恋仲になっていないし、王妃奪還を成し遂げるのはアルトゥース率いる軍勢である。
ここで王妃奪還におけるゴーヴァン/ヴァールヴェインの役割に注目すると、クレチアン版のゴーヴァンはランスロと共に王妃救出の冒険に出るが、水中の橋の冒険に向かうところで物語からは一時的に離脱する(溺れかけたまま放置されている)。
他方『ランツェレット』では、湖に架かる見えない橋を渡るために、ヴァールヴェインはエーレクと共に魔術師マルドゥクに幽閉される(一時的な離脱)。
このようなゴーヴァン/ヴァールヴェインの離脱・不在という点において、両作品の間に類似性が見えなくもないが、後にランツェレットが彼ら二人を開放する場面も含め、作品全体を通してランツェレットとヴァールヴェインの友情が強調されている。
注釈
[1] 平尾訳ではウァールウェインという読みになっている。
[2] 『散文トリストラント』の日本語訳(小竹訳)ではバルボン。
[3] 『パルチファール』ではさらに、ガーヴァーンの母親の名がザンギーヴェ(Sangîve)であることも明示されている。
[4] 『ダニエル』冒頭では、ダニエルはガーヴェイン、パルチファール、イーヴェインを含めた円卓の騎士たちと一騎打ちを行い、円卓の面々をことごとく打ち破った主人公をガーヴェインが円卓に招き入れるようアルトゥース王に進言する場面がある。ただし、成長を経ての決闘ではなく、ダニエルを最初から非の打ちどころのない騎士として描くためのものとなっている点で他の作品とは異なっている。
[5] なお、本稿で紹介しているドイツ語圏の作品には、ガウェインが午前中は3倍の強さを発揮するというメルヘン的特徴が描かれているものはない。
主なテクストおよび日本語訳
ハルトマンとヴォルフラムの作品は複数の出版社から中高ドイツ語/現代ドイツ語の対訳が出されているが、各々の作品につき一種類のみ挙げることとする。
Hartmann von Aue: Gregorius / Der arme Heinrich / Iwein. Hrsg. von Volker Mertens. Deutscher Klassiker Verlag (Frankfurt am Main), 2008
ハルトマン・フォン・アウエ(平尾浩三・中島悠爾・相良守峯・リンケ珠子訳)『ハルトマン作品集』郁文堂、1982[『イーヴェイン』(リンケ珠子訳)、261-409頁所収]
Wolfram von Eschenbach: Parzival. 2 Bände. Mittelhochdeutscher Text nach der Ausgabe von Karl Lachmann. Übersetzung und Nachwort von Wolfgang Spiewok. Reclam (Stuttgart), 1981
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ(加倉井粛之・伊東泰治・馬場勝弥・小栗友一訳)『パルチヴァール』郁文堂、1998改訂版
Ulrich von Zatzikhoven: Lanzelet: Text-Übersetzung-Kommentar. 2. Auflage. Hrsg. von Florian Kragl. De Gruyter (Berlin/New York), 2013
ウルリヒ・フォン・ツァツィクホーフェン(平尾浩三訳)『湖の騎士ランツェレト』同学社、2010
Der Stricker: Daniel von dem blühenden Tal. 3., überarbeitete Auflage. Hrsg. von Michael Resler. De Gruyter (Berlin/Boston), 2015
Eilhart von Oberg: Tristrant und Isalde. Hrsg. von Danielle Buschinger. Weidler Buchverlag (Berlin), 2004
アイルハルト・フォン・オーベルク(石川栄作訳)『トリストラントとイザルデ』講談社学術文庫、2025
小竹澄栄訳『トリストラントとイザルデ(ドイツ民衆本の世界6)』国書刊行会、1988(※いわゆる『散文トリストラント』の日本語訳)
最終更新日:2025年11月20日
文責:田中一嘉(日本大学文理学部)
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