ガウェイン【英】


Gawain

 「ガウェイン」のキャラクター自体はジェフリー・オブ・モンマス(Geoffrey of Monmouth)の『ブリタニア列王史(Historia Regum Britanniae)』(12世紀)における「アーサー王の甥(アルトゥールスの妹アンナとロトの子グワルグアヌス)」との記述に遡れるが、その後フランス、ドイツなどのアーサー王文学の展開を経て、イギリスで(つまり英語で)ガウェインの事績が語られるのは14世紀まで待たねばならない。大陸においては、伝説初期からアーサー王の近臣であるためか、他作品の主人公であるトリスタンやランスロなどに対する「当て馬」として、身勝手で粗野な騎士として描写されるようになってゆくが、逆輸入されたイギリスでのガウェインは「元来の」高貴な性質を与えられることが多い。

 14世紀後半の『頭韻詩アーサー王の死(Alliterative Morte Arthure)』は、ジェフリー、その古仏語版である12世紀ヴァース(Wace)の『ブリュ物語(Roman de Brut)』、その12~13世紀中英語版であるラヤモン(Layamon)の『ブルート(Brut)』の流れを汲み、ガウェインをアーサー王の旗下随一の騎士として描いている。モードレッド(Mordred)も「地上に比ぶべく者なく、もっとも騎士道を体現した騎士にして、その力は無比、宴では極めてやさしく、物腰は優美」と述べている(3875-80行)。中世イギリスのアーサー王物語のみならずロマンス全般の白眉とされる14世紀の『ガウェイン卿と緑の騎士(Sir Gawain and the Green Knight)』では、誓約の結果「首を切られる」という試練にガウェインがこれらの美徳を十全に発揮して臨み、唯一わずかに「命を惜しんだ」罪によって軽傷を負うという「人間ガウェイン」を描き出した。

 『スタンザ詩アーサー王の死(Stanzaic Morte Arthur)』と後述のトマス・マロリー(Thomas Malory)で述べられる「ガウェインは昼まで力を増し、午後になると力が衰える」という記述には、彼には少なくとも一部は「太陽神」としての要素が与えられていることが分かるが、彼の出自がジェフリーではロジアン(Lothian)そしてその後オークニー諸島(Orkney)と関連づけられているため、ブリテン北方の神話・民話の英雄であった/そのイメージを付与されたと推察される。この確証にはならないが、イギリスのガウェインロマンスではカーライル(Carlisle)、イングルウッドの森(Inglewood Forest)、ワドリング湖(Tarn Wadling)などイングランド北部からスコットランドにかけての地名がしばしば言及されている。なお『ガウェイン卿と緑の騎士』は北ウェールズから北部イングランドにかけてガウェインが旅をする話である。

 総じてイギリスにおけるガウェインは高貴なる騎士として描かれている。彼が主要な登場人物となる、『頭韻詩アーサー王の死』『スタンザ詩アーサー王の死』『ガウェイン卿と緑の騎士』および11に及ぶ作品群のうち、彼が「騎士道の華」と呼べない、いわばフランス系の描写をされているのは『ガウェイン卿のお話(Jeaste of Sir Gawain)』のみなのだが、この作品がロンドン近辺/南イングランドで作成されたと思われるのとは対照的に、他のガウェイン・ロマンス群は総じて発祥地が言語および写本/印刷物製作地域よりイングランド中部以北であろうと推測されている。

 イギリスにおいてアーサー王物語の骨格が確立するのはトマス・マロリー(Thomas Malory)の『アーサー王の死(Le Morte Darthur)』である。これはイギリス初の印刷業者ウィリアム・キャクストン(William Caxton)によって1485年に発行され、二つのコピーのみが現存している版と1934年になってウィンチェスター・コレッジにて発見された通称「ウィンチェスター写本」によりその全貌が遺されている。現在英語圏はもとより世界で知られるアーサー王物語の大半はこの作品が提供してきたと言えるだろうが、マロリーは一部『頭韻詩アーサー王の死』などを翻訳しているものの、全体の構図としてはフランスの『流布本(Vulgate Cycle)』に従っているため、ことガウェインの描写については大陸系のそれを踏襲している。その意味で、マロリーのガウェイン像は「非・イギリス的」と呼んでよいだろう。

Foster, Edward E. and Larry D. Benson, eds, King Arthur’s Death: The Middle English Stanzaic Morte Arthur and Alliterative Morte Arthure (TEAMS, 1994)

<https://metseditions.org/editions/ArW747G4izeLNHe99xFaVNKS5kwdvz5dl>

Hahn, Thomas, ed., Sir Gawain: Eleven Romances and Tales (TEAMS, 1995)

<https://metseditions.org/editions/wqyAeLVTv5QUegmmIyBr0h3bdEEmgEz>

Tolkien, J. R. R., E. V. Gordon, and Norman Davis, eds. Sir Gawain and the Green Knight, 2nd ed. (Clarendon Press, 1967)

ジェフリー・オヴ・モンマス『ブリタニア列王史 アーサー王ロマンス原拠の書』瀬谷幸男・訳(南雲堂フェニックス、2007年)

『サー・ガーウェインと緑の騎士 他一編(「オルフェオ王」)』道行助弘・訳(桐原書店、1986年)

『ガウェイン詩人全訳詩集』境田進・訳(小川図書、1992年)

『ガウェーンと緑の騎士 ガーター勲位譚』瀬谷広一・訳、新装版(木魂社、2002年)

『サー・ガウェインと緑の騎士』池上忠弘・訳(専修大学社会知性開発研究センター 言語・文化研究センター叢書 4、2009年)

『中世イギリスロマンス ガウェイン卿と緑の騎士<中世英語英文学III>』菊池清明・訳(春風社、2018年)

『サー・ガウェインと緑の騎士 トールキンのアーサー王物語』山本史郎・訳、新版(原書房、2019年)

『八行連詩 アーサーの死』清水阿や・訳(ドルフィンプレス、1985年)

『頭韻詩 アーサーの死』清水阿や・訳(ドルフィンプレス、1986年)

トマス・マロリー『アーサー王の死』厨川文男・厨川圭子・訳(筑摩文庫、1986年)

トマス・マロリー『アーサー王物語』井村君江訳、全5巻(筑摩書房、2004~07年)

最終更新日:2025年11月27日
文責:高橋勇(慶應義塾大学 文学部)


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